mama!milk 初夏の演奏会「Concert at Honen-in temple, Kyoto」のこと

2024年5月25日 [京都] 法然院での演奏会へむけて、あれこれ準備しています。


1) 音の採集|デヴィッド・ブルーアン
日時: 2024年1月22日
場所: 法然院 方丈庭園 善気水

Feild recording by David Blouin
Sound captured and edited at Zenkisui Spring, Hojo garden of Honen-in temple




2) 光の採集|魚森理恵 ( kehaiworks )
日時: 2024年2月28日
場所: 法然院 方丈庭園 方丈池

Feild recording by Rie Uomori ( kehaiworks )
Lights captured at Hojo pond, Hojo garden of Honen-in temple


3) 水と光の戯れ * フィールド・レコーディングの記録

音の採集・整音|デヴィッド・ブルーアン
光の採集|魚森理恵 ( kehaiworks )
2024年初春、法然院 方丈庭園にて

Sound recorded and mixed by David Blouin
Light recorded by Rie Uomori ( kehaiworks )
Field recording at Hojo garden of Honen-in temple in early spring 2024

 


4) エッセイ|村松美賀子(文筆家・編集者)

水をきく

法然院の山門をくぐる。

二十年ほど通っているのに、この門を前にするたび、はっとする。
茅葺き屋根の苔むした色。光が落とす影。額縁のように切り取られた境内の景色。
つよく印象にのこる眺めだが、いつ来ても目に新しい。
水に見立てた百砂壇のあいだを抜けて、放生池にかかる橋を渡る。大きな手水鉢の口から、一輪の花をつたって、清い水が流れおちる。
演奏会が行われる方丈庭園は、本堂の奥にある。すみずみまで清浄な回廊がやわらかく照らされている。黒光りする木の床を足裏に感じながら、方丈の間へと向かう。襖絵が外された広間と庭は一続きとなり、善気山へとつながっている。
池の水面(みなも)で光が揺れる。空になった鹿威しがはね上がり、石を叩く。

この庭園には、湧き水がある。「善気水」といって、法然院が中興された三百数十年前から、絶えることなく湧きつづけている。
庭のなかほどに広がる方丈池の、此岸(ひがん)と彼岸(しがん)をつなぐ橋を渡った、その奥。
法然院では、この水を誰かが毎日汲みにいく。現世から彼方に向かい、いのちをつなぐ水をいただいて、戻ってくる。
善気水はこの寺の源でもある。この寺を満たし、流れる。かたちを持たず、変わりゆく。

善気水は、善気山からやってくる。降りそそいだ雨が山に染みこみ、深いところにたくわえられる。そして、方丈庭園に湧き出でる。
流れ出た水は、ふたたび地下の水脈をひたひたとすすみ、やがて地底にある大きな「京都水盆」に辿り着く。固い岩盤の下にたっぷりと水がたくわえられ、その水量は琵琶湖と同じくらいだという。
地下に広がる、静かな海。水はそこにとどまって在り、ゆっくりと流れ込み、流れだす。そうして長い、長い時間をかけて、巡っている。
陽の届かない、地面の下の海と、空に向かってそびえる山と。目の前にある方丈庭園は、そのあいだの風景だ。そして、みえないものを想像する場所でもある。

mama!milkのふたりの演奏は、ここで想像する力をふくらませてくれる。
生駒祐子さんがアコーディオンの鍵盤から指を離したあと、あるいは清水恒輔さんがコントラバスの弦に弓を当てる前の、音にならない音。知らず知らずのうちに、それらを受けとっている。そのたびに、方丈庭園が近づいたり、遠ざかったりする。
きこえているはずなのに、きいていなかった生きものの声。その生きものたちをうるおす水の波。耳できこえていなくても、音はある。身体のどこかできいている。
木の葉が宙に舞い、苔の上にゆらゆらと落ちる。
ふたりの奏でる音楽という額縁があってこそ、その余白が生まれ、満たされてゆく。みえないもの、きこえないものも、ともにつくりだす、彩りある景色。みるまに移り変わって、息をのむ。

人間も自然の一部なのです。

法然院第31代貫主・梶田真章さんの言葉が腑に落ちる。

陽が傾いてくると、めくるめく時間が始まる。
演奏がすすむにつれて、移ろう光は、方丈の間にいるわたしたちを通り過ぎ、庭園から善気山を照らしだす。生きものの声ががらりと変わる。自然のなかのひとかけらであることに、安堵する。
地下に広がる海も、山の頂の先にある空も、そう遠くはないのかもしれない。つながっている。

村松美賀子(文筆家・編集者)

 


5) 地図のこと

※Created by editing GSI Maps 2024 Musica Moschata


6) リーフレットのこと
デザイン: かなもりゆうこ
リソグラフ印刷: hand saw press Kyoto

Leaflet design by Yuko Kanamori
Risograph printed by hand saw press Kyoto

 



photo : Yoshikazu Inoue, Concert at Honen-in temple, Kyoto 2022

初夏の演奏会 2024
Concert at Honen-in temple, Kyoto
2024年5月25日(Sat)
[京都] 法然院・方丈

出演 |
mama!milk
生駒祐子 アコーディオン
清水恒輔 コントラバス

照明 | 魚森理恵 (kehaiworks)
エッセイ | 村松美賀子 (月ノ座)
宣伝美術 | かなもりゆうこ, hand saw press Kyoto
協力 | David Blouin
制作協力 | 株)アクティブ ケイ
主催 | MUSICA MOSCHATA

題字 | 竹村愛 (竹村活版室)


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